治療終結の段階における意思決定支援
2016年度 年次大会-講演抄録|日本生殖看護学会パネルディスカッション
学会講師:小松原 千暁
Abstract
日本産科婦人科学会のARTデータ(2013)報告では,生殖補助医療により24人に1人が出生する一方で,晩婚化に伴い不妊治療患者の高齢化も進み,総治療周期数対の生産数は11%に過ぎない.そのため生殖補助医療を繰り返し,治療期間が長期にわたることとなる.その結果,第三者からの卵子提供や養子縁組により親になれる選択さえも年齢制限の壁で閉ざされてしまうことがある.それらの現状から,当院では不妊治療カップルが「知らなかったから選択できなかった」ということがないよう,たとえ不妊治療中であっても治療終結を想定した選択肢の情報提供を行い,将来を見据え納得した意思決定ができるために,医師や他職種と協働で支援するシステムを構築したので報告する.
当院では,配偶者間の治療では妊娠が困難であると医師が予測した場合に,治療の継続や今後の家族の在り方を,ご夫婦が改めて考える機会を持てるよう情報提供と感情を整理する場を設けている.具体的な取り組みとしてまず,グループ相談では,不妊治療終結にまつわる情報提供や不安や葛藤を話し合える「茶話会Next Step」を紹介する.医師による「女性の妊孕性,着床前診断,日本の不妊治療の限界,不妊治療以外の選択肢,更年期治療」,不妊症看護認定看護師(以下CN)より「卵子提供,養子縁組,夫婦ふたりの生活」を情報提供し,その後にグループディスカッションを行う.一方,テーマ毎に開催する「茶
話会LaLa Café」では,卵子提供や養子縁組を選択された方,または,ふたりの人生を選択された方を講師として招き,体験談を聞いた後にディスカッションを行っている.2つの茶話会を通じて,同じように悩み,様々な選択をした他者間で気持ちを共有できることで,孤独感から解放され,周囲への視界を広げ自己の感情整理ができるよう支援している.
また,個別相談では,診察後の看護師説明,CNや生殖医療相談士による相談を有料予約制として開催し,個別的な感情を表出でき,治療過程を振り返り,認識の再確認,未来像の再構築できる場としている.さらに,個に合わせたタイムリーな情報提供と治療終結も視点に意思決定ができるように支援している.しかし,心理的に専門性の高い支援が必要な場合には,臨床心理士と連携し,専門的な心理カウンセリングを積極的に勧めている.治療終結を意思決定するためのリソースとして,卵子提供や養子縁組に関する「卵子提供について」「養子縁組について」を看護師の相談室にて配布している.また,当院独自で作成した「治療終結を考えているあなたへ」と題した不妊治療終結へのプロセスを案内したパンフレットや卵子提供エージェンシーと養子縁組斡旋団体のパンフレッ
トなども,患者が自由に持ち帰れるように院内に置いている.
このような他職種協働でのシステム構築を通して,たとえ長期間不妊治療を受けて望んだ結果に至らなくても,ご夫婦で様々なことを考え話し合い,最善の不妊治療に取り組んだ実感が持て,患者自身がこの選択で本当によかったと思える意思決定支援の実践と評価を積み重ねることがCNとしての役割であると認識している.