東日本大震災を通しての危機管理対策と課題
2021年度 年次大会-講演抄録|自然の脅威への対応を考える
学会講師:吉田 仁秋
Abstract
10 年前の2011年3月11日,突然未曾有の大地震が東日本を襲い,沿岸部では大津波が発生,またこの津波により福島原子力発電所が破壊され,放射能の危険にも晒された.この大震災を経験し,主にARTセンターにて起こった事を中心に,今後起こりうる様々な自然災害に対し,生殖医療に従事している多くの方々の危機管理対策の一助となるよう,その対処法と課題について報告する.
震災の概要は,仙台市が震度6 強(マグニチュード9.0)の揺れを記録し,その後も強い余震が断続的に起こり,電気・ガスをはじめとするすべてのライフラインが断絶された.また陸,海,空すべての流通経路も遮断され,孤立した状態なった.宮城県では,病院や診療所の浸水により被害を受けた病院が10 件にも及び,またほとんどの店舗が営業不能となり,大混乱を巻き起こした.
当時は分娩や手術も行っていたため,先ず入院患者の屋外避難および安全確保を第一優先とした.その後,大きな揺れが収まった時点で屋内待機とした.以後,6日間もの停電が続き,分娩患者は日赤病院へ転院とした.ラボ部門では採卵,胚移植およびICSIも午前中に終了していた.自家発電が稼働し,すぐに屋外退避できるよう,スタッフ・患者共にARTセンター外来待合にて待機し,ラジオにて状況を把握するよう努めた.当日朝に採卵した卵の培養は継続,翌日すべての受精卵凍結を施行することができ,インキュベーターの機能も維持されていた.外来診療については,地震発生3日後より午前診療のみ再開し,連日ミーティングにて情報交換を密にするよう努めた.ARTについては震災翌日に採卵胚移植を全て停止し,ARTセンターを一時閉鎖.胚の損失等は完全に防止できた.
● 震災時の課題と必要な対策や備蓄して置くべきものについて以下参照
① 停電:自家発電で対応するも軽油確保が非常に困難
② ガス停止:IHやカセットコンロで代用.復旧に最も日数を要した
③ 断水:貯水槽使用するも水道復旧前に空になった
④ 通信遮断:電話,インターネット,郵便,宅配便ともに不通となり,連絡不能となった
⑤ 燃料不足:ガソリン・軽油の供給制限があり,確保が困難
⑥ 食料・飲料水・生活用品の不足:すべての店舗が閉じていたため,生活必需品の確保が困難であった
⑦ 外来診療の停止:3日後に午前診療のみ再開できた
⑧ 採卵・胚移植の停止:受精卵をすべて凍結した時点でARTセンターを一時閉鎖
⑨ 分娩・手術の停止:分娩は仙台日赤に依頼
⑩ スタッフの確保:出勤可能なスタッフが泊まり込みや自転車通勤で対応
定期的な事前対策
・火災報知機の非常ベルおよび消火器の位置を確認
・非常袋等の内容物確認および入替
・AEDの常備箇所およびバッテリー確認
・備蓄品の電池確認
備蓄品
・懐中電灯
・拡声器
・携帯ラジオ
・マスク
・非常用食料および飲料水
・IHクッキングヒーター
・カセットコンロ
・燃料(自家発電用)
・簡易トイレ
・消火器
まとめ
震災は予期せぬ時に突如発生するため,如何に対処できるかが医療機関の指標であり,日頃の危機管理体制および自然災害に対する備えが最も重要である.