Papers and Abstracts

論文・講演抄録

採卵で未成熟だった卵子を如何に治療に用いるか

北坂 浩也

2017年度 年次大会-講演抄録ART Frontline

学会講師:北坂 浩也

Abstract

卵巣刺激周期においても未成熟卵子が多く混在する症例がある.このような卵胞刺激に暴露されていながら卵子が成熟していない卵胞は,卵胞発育過程で何らかの発育不全が生じたと推察される.その卵胞の不完全さは「LHに反応する顆粒膜細胞」「卵子の成熟を直接的に制御する卵丘細胞」あるいは「卵子そのもの」のいずれかに起因していることから,卵原発の異常でなければ未成熟卵であってもARTに利用可能である.

まず,採卵された卵・卵丘細胞複合体の卵丘細胞層が膨化していない時,これは未成熟であると判断でき,FSHやEGF様成長因子を添加した体外成熟培養を行う事で成熟卵を得る事ができる.一方,ICSI症例では卵丘細胞層をヒアルロニダーゼにより除去する.この段階で,極体が放出されていないことが判明した時には,解糖系を行う卵丘細胞を除去しているので,卵子の代謝を活性化させるためには,直接TCAサイクルに利用されるアミノ酸類やピルビン酸類を含有する培養液を用いる必要がある.さらには,酸化ストレスを低減するグルタチオン合成と還元に関わる因子が卵丘細胞から供給されないため,抗酸化作用を持つアルブミンを添加する必要もある.

上記の培養により,ヒト卵子においては,数時間には極体放出が起こり,ICSIを施行したが,採卵時に極体放出が認められた卵子のそれに比較して有意に低い値であった.では,なぜ裸化卵の追加培養により得られた成熟卵は,正常受精率が低いのであろうか?我々は,加齢化が起こりやすいNrg1flox/floxマウスにおいて,第二減数分裂中期における紡錘体が不安定化する結果,受精後の第二極体放出異常や染色体分配異常により異常受精卵が誘発されることを報告している.この紡錘体形成や極体放出は,細胞骨格のリモデリングにより起こることから,それを制御しうる細胞膜貫通タンパク質インテグリンと細胞外マトリクスであるファイブロネクチン(FN)に着眼し,排卵卵胞における動態変化とそれらの役割の解明を試みた.その結果,マウス過剰排卵モデルにおいて,hCG投与6時間以降に卵丘細胞の脱接着が生じ,その細胞間と卵・卵丘細胞間にFNが浸潤し,蓄積されることが明らかとなった.GVBD卵を回収し,卵丘細胞を除去して培養した時,FN添加により極体放出が促進され,第二減数分裂中期での紡錘体の安定化が高められることが示された.この結果は,FNとインテグリンの結合を競合阻害するRGDペプチドにより抑制され,FN無添加条件で見られる極体放出異常と紡錘体の不安定さが再現された.

以上の結果から,極体未放出である場合,代替血清培地を用いた追加培養では,紡錘体の不安定さに起因する染色体分配異常が生じる可能性が高いことが示された.
代替血清にはFNが含まれていないことを考慮し,適切な追加培養環境とすることで受精率のみではなく臨床成績の向上が期待できると思われる.

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