挙児希望女性における亜鉛不足 の現状とプレコンセプションケア における課題
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:宮本 絵美里1 ) ・安藤 寿夫2) ・古井 憲作1 ) ・山田 友梨花1 ) ・植草 良輔1) ・國島 温志1) ・長尾 有佳里1) ・矢吹 淳司1) ・梅村 康太1) ・岡田 真由美1)・河井 通泰1)
1)豊橋市民病院産婦人科 2)豊橋市民病院総合生殖医療センター
Abstract
【目的】
食材の選択肢が豊富で少人数世帯の増加した現代社会は,偏った 食生活に陥りやすく, 晩婚晩産化や長時間労働や間違ったダイエッ トにより慢性的かつ特定の栄養素不足が是正されないまま不妊治療 やARTを受療する女性が増加していると想定される.亜鉛は 300余 種の酵素の活性中心元素として働いている必須微量元素であり, 生 殖機能全般にも影響することは自明ともいえるが, プレコンセプショ ンケアにおける栄養管理の盲点となっているのではと考えた.亜鉛欠 乏が食事やサプリメントでは短期間に改善困難なことから亜鉛製剤 が2017年に保険適用となり, 今や有効な治療手段となったことから, 亜鉛欠乏の実態を調査し治療により短期是正することを研究の初期 目的とした.
【方法】
当院生殖外来初診女性のスクリーニング検査項目ならびにART受 療女性に6ヶ月毎におこなう“術前検査”項目に血清亜鉛を追加し,96名全員の説明同意を得て自費採血した.採血7日以内の亜鉛製剤内 服と採血当日の亜鉛含有サプリメント摂取を避けて採血を実施し,80 μg/mL 未満の女性に対しては結果の説明(日本臨床栄養学会診療指 針2018 に基づき60μg/mL 未満を亜鉛欠乏(A),60 ~ 80μg/mLを 潜在性亜鉛欠乏(B)とし, 欠乏による症状と妊娠時の需用増, 薬剤内 服の必要性, 改善後の食生活のあり方等)を行った.生殖医療は続行 しつつ亜鉛製剤100mg/日を 60日(A)もしくは 30 ~ 45日(B)連日内服 させ,改善評価を行なった.
【結果】
スクリーニング検査にて血清亜鉛を測定した 96名のうち, 正常であ る80μg/mL以上であったのは9名(9.4%)のみで,60 ~ 80μg/mLの(B) が 64名(66.7%),60μg/mL 未満の(A)が23名(24.0%)であった.年齢, BMI,サプリメント摂取の有無との関連は明らかでなかった.(A)と(B) を合わせた87名の中で,上述の説明の結果亜鉛製剤を実際に処方した のは 39名であり, そのうち22名で処方後の血清亜鉛再検が施行済みで あった.再検結果では正常10名,(B)9名,(A)3名であり,(A)から正 常への改善が 5名,(B)から正常への改善が 5名,(A)から(B)への改 善が 4名,改善を認めなかった者が 8名であった.
【考察】
亜鉛は今回スクリーニング検査を行なったほとんどの患者に充足して おらず,妊娠を目指すにあたっての不足のみならず,ARTをはじめとし た生殖医療の成績にも悪影響を及ぼしている可能性が示唆された.
【結論】
亜鉛欠乏をプレコンセプションケアに組み入れ, 挙児を望む女性に は亜鉛製剤を用いて速やかに改善を図る必要がある.