感染症に対する普遍的な工学的対抗策の検討
2021年度 年次大会-講演抄録|自然の脅威への対応を考える
学会講師:秋吉 優史
Abstract
現在世界中で極めて大きな問題となっているCOVID-19 の蔓延に加えて,今後も新型インフルエンザなど様々な感染症の出現,蔓延の可能性があるが,ワクチンが出来るまでの感染制御の手段として,三密を避ける,うがい,手洗いなど,19 世紀以前から行われてきた対策しか市民に提供されていない.密集,密閉,密接の三密は,それぞれ飛沫感染,エアロゾル感染,接触感染に関わる物として考える必要があるが,現状で示されている対抗策は飛沫に対してはソーシャルディスタンスを取る,マスクをする,エアロゾルに対しては換気をする,接触感染に対しては石けんでの手洗い,アルコール消毒などである.しかしながら,会食の場ではソーシャルディスタンスの2mより近い距離でマスクをせず
に飲食が行われる.また,マスクをしていても飛沫は20% 程度が飛散しており,5μm 以下のエアロゾルは50% 程度が飛散している.換気も店の構造や冷暖房の必要などそれぞれの環境によって限界があり,そもそも飛沫感染に対して換気は効果が無く,屋外での飲食によっても感染する.接触感染に関しては常時消毒し続けることは不可能であり,また,界面活性剤やアルコール消毒は脂質のエンベロープを持たないウイルスに対しては効果が無い.
このため,我々は紫外線と光触媒を新たな工学的な対抗策として提唱する.紫外線,特に280nmよりも波長が短い UV-C は DNA/RNA に直接損傷を与え,高い殺菌効果があることが100 年以上前から知られている.光触媒は我が国発の技術として世界をリードしている分野であるが,光子のエネルギーから活性酸素を生成することにより様々な有機物を分解し,菌・ウイルスも例外ではない.特に近年可視光でも高い活性酸素生成率を示す光触媒が開発されており,室内での接触感染抑制が可能となっている.既に紫外線,光触媒共に,SARS-Co-2 の不活化に対して有効であることが世界中から報告されておりその有効性は疑いの余地がない.紫外線も光触媒もその作用原理から特定の菌・ウイルスに対して効果が無いということは考えられず,実際にこれまで報告されていない普遍的な対抗策である.そのため,COVID-19 に対してのみならず,今後発生する様々な感染症への対抗策として有望であり,今後COVID-19が終息した後も,感染症を防ぐ新しいライ
フスタイルの一環としてその普及を提唱する.特に,飛沫感染を防ぐために開発した,可視光応答の光触媒を用いた小型・静音で簡易な空気清浄機は,人と人の間に設置できる小型飛沫除去装置と位置づけられ,実験室レベルの検証のみならず実際のマクロな感染症抑制効果の実証試験を検討している.
本研究で開発する感染制御のための工学的対策技術は,これまで行われてきた古典的な対策に置き換わる物ではなく,あくまでも+αの対策である.UV-C 紫外線は透過力が小さく,影になる部分には効果が無い,皮膚や目に強い炎症を与える,光触媒は光が当たらなければ効果が無く大量の有機物の分解には時間を要するなど,弱点,問題点も存在するが,うまく利用することで感染症抑制による人的・経済的損失の低減に貢献できると考える.