当院で経験した挙児希望のある子宮体癌10症例における不妊治療の転帰
2018年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:小川 尚子・加藤 裕之・大塚 未砂子・吉岡 尚美・水本 茂利・村上 貴美子・蔵本 武志
蔵本ウイメンズクリニック
Abstract
目的:子宮体癌は我が国において増加傾向にあり、多くは閉経後に発症するが、比較的若年者に発生することもあり、挙児希望がある場合には妊孕性温存療法が強く望まれる。妊孕性温存療法後に、当院で不妊治療を希望する患者も増加傾向にあるため、当院で経験した挙児希望のある子宮体癌の症例の検討を行った。
方法:2009〜2018年に当院で経験した子宮体癌の10症例について後方視的に検討した。挙児希望で不妊治療目的に当院を受診したのち子宮体癌の診断に至った症例が7症例、子宮体癌と診断され妊孕性温存療法(高用量MPA療法+全面掻爬術)を施行された後に不妊治療目的に当院を初診した症例が3症例であった。10例の症例背景および子宮体癌に対する治療、不妊治療の成績等について検討を行った。
結果:子宮体癌の診断時年齢は、29-43歳(平均35.6歳)、経産は1例のみで、平均BMIは23.4、月経不順を認めた症例は5症例、そのうちPCOSは2症例であった。
他院で子宮体癌と診断されMPA療法を施行された後に、不妊治療目的で当院を初診したのは3例、その他の7例は挙児希望で当院を初診したが、経腟超音波断層法で子宮内膜の不整や子宮内膜ポリープを疑い、子宮鏡手術や子宮内膜細胞診を施行したことを契機に診断となった症例であった。不正出血を自覚している症例はなかった。
MPA療法後に当院で不妊治療を行なったのは7例で、1例は現在MPA療法中、1例はMPA療法後に転居、1例は妊孕性温存療法の適応外と判断され子宮全摘出術を施行された。不妊治療を行なった7例中6例(ART:5例、一般不妊治療:1例)で臨床的妊娠が成立した。そのうち1例は、ARTで3回妊娠し3回出産したが、全ての出産で癒着胎盤の所見を認め、最終的に子宮全摘出術を施行された。1例は子宮内膜の菲薄化および癒着を認め、現在もARTを行なっているが妊娠は成立していない。現在のところ、当院の不妊治療中における子宮体癌の再発例は認めていない。
考察:通常の挙児希望症例の中にも、子宮体癌の症例が隠れている可能性がある。早期発見により、妊孕性温存療法が可能であった症例が殆どだが、中には子宮全摘出術を余儀なくされた症例も認めた。子宮内膜全面掻爬術を併用する高用量MPA療法後の症例では、子宮内膜の菲薄化や癒着により不妊治療に苦慮する症例も見られるが、必要に応じて早めにARTを行うことで、高い不妊治療成績が得られることがわかった。ただし、MPA療法は再発率の高い治療であるため、再発症例の早期発見および治療のためには、腫瘍治療施設と密に連携を行いながら不妊治療を行うことが重要である。