Papers and Abstracts

論文・講演抄録

家畜をモデルにした加齢に伴う卵子の変化とその対処方法

岩田 尚孝

2016年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop

学会講師:岩田 尚孝

Abstract

動物の卵数は加齢に伴い減少しその質も低下する.ウシは加齢に伴う内分泌的変化や卵胞の選抜過程がヒトと類似しており,20年近い長い寿命を持つ.また卵巣の入手が容易で,個体情報が確認できるメリットがあるため,長期にわたり低下する妊孕性や卵子の質を研究する動物モデルとして使うことが出来る.

加齢に伴う胞状卵胞数やホルモン処理後の排卵数の減少は,様々な動物種で報告されているが,ウシ卵巣中の卵子数を切片標本から推定すると,原始卵胞の月齢に伴う顕著な減少が観察される.また胞状卵胞内の卵子では,体外受精後の正常受精率や初期発生と,ドナーの月齢間に明確な負の相関が確認でき,発生した胚も低質である.次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現解析では,発現が変化する遺伝子の多くがミトコンドリアに関連付けられる.ミトコンドリアは卵子中で,ATP生産やカルシウムシグナル等,重要な役割を果たしている.リアルタイムPCRを用いて卵子中のミトコンドリア数を比べると,胞状卵胞中の卵子でも初期胞状卵胞から切り出した卵子でもミトコンドリア数の有意な減少が確認できた.さらに卵子の含有する活性酸素量がドナーの老化に伴い上昇することから,ミトコンドリアは加齢に伴う卵子の質低下の対処法を考える上で,重要なターゲットであると考えられる.

体細胞内のミトコンドリアは合成と分解,融合と分裂のバランスの元,維持されている.この合成にはサーチュイン・ファミリーの一つであるSIRT1 やAMP
Activated Protein Kinase( AMPK) からPGC1αそしてTFAMといった経路を介して制御されており,分解にはプロテアソームやオートファジーの関与が報告さ
れている.未経産のブタ卵子を用いた試験で,脱共役剤を用いて卵子のミトコンドリア機能を奪うと,その後SIRT1-TFAMの活性化を介して,ミトコンドリアの合成と分解の亢進が確認された.そこでSIRT1をレスベラトロールで活性化させると,同様にミトコンドリアの合成と分解が亢進され,卵子の質が向上した.そこで加齢と若齢ウシ由来卵子を対象に,脱共役剤処理でミトコンドリアの機能を奪うと,若齢ウシ由来卵子ではSIRT1の活性化が起こり,受精後の発生能力には影響しないが,加齢ウシ卵子ではSIRT1の活性化が起こらず発生率は有意に低下する.このことは加齢に伴いミトコンドリアの品質管理機構が変化していることを示唆している.発表ではこのようなミトコンドリアの品質管理機構を介した加齢個体の卵子に対するアプローチを例に,加齢に伴う卵子の質低下とこれに対する対処法を考えたい.

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