子宮内膜の着床機能について考える~ ~ EMMA・ALICE検査について ~
2021年度 年次大会-講演抄録|シンポジウム「着床環境改善策を考える」
学会講師:中山 貴弘
Abstract
着床,妊娠維持継続のためには複数の因子が絡み
合っているが,一番大きい因子は胚要因であることは周
知の通りである.しかしながらEuploid 胚を移植した場
合でも妊娠率は60-70%との報告が多く,胚以外の要
因として子宮内環境,着床期Window,胚を受け入れ
る免疫寛容等を調整していくことが妊娠率向上の鍵で
ある.妊娠が成立しないすべての原因を検索することは
不可能であるが,医療の進歩に伴い新たな検査が可能
となり,原因不明不妊の妊娠率向上の手がかりとなる
可能性が期待されている.
子宮内環境要因には,慢性子宮内膜炎(Chronic
Endometritis:以下CE)や子宮内膜細菌叢の異常が
この数年で特に注目されている.CEの主たる原因は子
宮腔における細菌感染であることから,診断及び治療
を行う上で起炎菌の同定が第一歩となる.しかし,子
宮内に存在する細菌の量は極めて少なく,原因菌の特
定が困難であった.さらに,現時点でCEの正確な診
断基準はなく,病理検査・子宮鏡などにより各々の施
設で独自に判断し,原因菌の特定がないまま広域抗菌
薬による治療が主となり,常在菌である善玉菌までも
減少する事や,耐性菌蔓延のリスクを伴っている点が
問題視されている.
そこで子宮内に存在する細菌を次世代シーケンサー技
術によるDNA 解析により,培養可能な菌も,不可能な
菌も検出することができる検査として子宮内膜マイクロバ
イオーム検査(Endometrial Microbiome Metagenomic
Analysis:以下EMMA)/感染性慢性子宮内膜炎検査
(Analysis of Infectious Chronic Endometritis: 以下
ALICE)が登場した.EMMAは子宮内の細菌を網羅的
に調べ,ALICEはCEの原因として特によく認められる
病原菌9 種類(Enterobacteriaceae属のEsherichiaと
Klebsiella,Enterococcus,Chlamydia,Mycoplasma,Neiseria,Ureaplasma,Staphylococcus,Streptococcus)
の存在の有無やその割合を調べる検査である.子宮内
膜組織のDNA 解析を行い,存在する細菌の遺伝子配
列を解析することで,培養が困難な菌や菌量が少ない菌
も検出できるようになり,各細菌分類,および相対的定
量化が可能となった.2016 年,Morenoや,子宮内膜
の常在菌であるLactobacillus属が子宮内腔に90%以
上を占める群は,90%未満の分に比べ,着床率及び出
産率が有意に高かったと報告している.ラクトバチルス
属が豊富な子宮環境ほど,妊娠率の改善や流産率の低
下と関連している可能がある.検査により原因菌の有無
を調べ,結果に応じた適切な抗生剤治療や膣内へのプ
ロバイオティクス治療などの推奨個別治療は,必要患者
のみ治療を行うことで,身体的・経済的負担の軽減も得
られ,妊娠率の向上に寄与すると思われる.
最近,我々はART 領域での頻回着床不全,流産を
繰り返す症例のみならず,胚の着床前診断で得られた
貴重な移植可能胚を持つ患者には適切な子宮内環境
であることを確認し,着床・妊娠できるようEMMA・
ALICE 検査を施行し妊娠率向上となるよう提案してい
る.さらに一般不妊の患者で頻回生化学的妊娠,臨
床的流産を繰り返す患者にも不育症検査の一つとして
EMMA・ALICE 検査をすすめている.特に流産手術時
の絨毛染色体検査で正常核型を示す症例,感染性流
早産の既往のある患者にはEMMA/ALICEを提案して
いる.一般不妊検査,不育症治療においても症例によ
りEMMA・ALICE 検査で治療選択肢が増え,妊娠継
続率向上が期待されると思われる.