子宮および末梢血NK 細胞における GM-CSF産生と胚培養液選択
2022年度 年次大会-講演抄録|シンポジウム3「これからのIVF-ET に必要な個別化治療」
学会講師:浮田 祐司
Abstract
【目的】遺伝学的に非自己である受精卵が子宮内膜に着床し成長していくためには,その受精卵の受容を可能とする精妙な免疫機能の調整機構が介在し,さらに胎芽の拒絶を阻止しその発育を保証できる機構の存在が必要である.細胞傷害性リンパ球の一種であるNK細胞は,末梢血ばかりか子宮内膜にも存在し,子宮内膜における免疫機構の維持に重要な機能を果たしていることが明らかにされている.子宮NK 細胞は妊娠初期局所において絨毛・胎児を拒絶することなく外敵から守り,絨毛細胞の増殖に必要なサイトカインを分泌して妊娠維持のために積極的に働いている.このうち,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor:GM-CSF)は,胚の発育や着床,子宮内膜環境調節に関与していると考えられる.流産経験のある患者では末梢血GMCSF濃度が低下していることが示されているが,それらの患者の子宮内膜あるいは末梢血NK 細胞が産生する
GM-CSFについては明らかではない.そこで着床周辺期における末梢血および子宮内膜NK 細胞GM-CSF産生と臨床成績との関連を検討した.
【方法】倫理審査委員会の承認および患者への説明と同意のもと以下の2つの検討を行った.①体外受精・胚移植(IVF-ET)施行前周期黄体中期に末梢血,子宮内膜を採取し,GM-CSF産生性NK 細胞をフローサ
イトメトリーで測定したうえで,IVF-ETを施行した.②凍結胚移植(FET)時に末梢血を採取し,GM-CSF産生性NK 細胞をフローサイトメトリーで測定した.この時,胚培養・胚移植にはGM-CSF 加胚培養液あるいはGM-CSF 不添加胚培養液を使用した.また,GMCSF加胚培養液を使用した群およびGM-CSF 不添加胚培養液を使用した群をそれぞれ,末梢血のGM-CSF正常値と低値に分けて検討した.
【成績】① GM-CSF産生NK 細胞は妊娠成立の有無では差を認めなかった.2回以上の流産既往を有する不育症患者では有意にGM-CSF産生CD56dim 細胞が低値であった(p<0.05).さらに末梢血と子宮内膜のGM-CSF 産生NK 細胞との間に有意な正の相関(r2=0.379,p<0.01)を認めた.②末梢血GM-CSF産生NK 細胞の割合から高値群,低値群に分け,さらに使用した培養液から4 群に分け検討すると,GMCSF
産生低値かつGM-CSF不添加胚培養液を使用した群で他の3 群に比して有意に妊娠率が低値であった(p<0. 05).
【結論】GM-CSF産生性NK 細胞に関して,末梢血と子宮内膜の状態には相関を認めた.すなわち末梢血を検討する事により子宮内膜の状態を知りうる可能性が示唆された.さらに末梢血および子宮内膜のNK 細胞が産生するGM-CSFがその後の妊娠の成立・維持に対し役割を有している可能性が示唆された.