培養液開封後の経過日数が胚の培養成績に及ぼす影響
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:遠藤 祐子・水本 真夕・井上 令子・磯邉 明子・江頭 活子・加藤 聖子
九州大学産婦人科
Abstract
【目的】
ARTで使用されている市販の培養液は, 未開封かつ有効期限内であればメーカー基準の品質が保証されている.当院では ART 症例数が少ないため, 一度開封した培養液を複数回に分けて使用しており, その使用期限を開封後14日以内としている.しかし, 一度開封した培養液は, コンタミネーションの危険性や培養液組成が変化する可能性 がある.今回これまでの培養液管理を見直すため,培養液開封後の経 過日数が胚の培養成績に影響を及ぼすか後方視的に検討した.
【方法】
2016年9月から2019年6月までに当院にて IVFを施行し,2PNが得られた 59周 期を対 象とした. 受 精 確 認 後,Continuous Single Culture Complete with HAS または Continuous Single CultureNX Complete(FUJIFILM Irvine Scientific)で作製した培 養 用 ディッシュで分割期または胚盤胞期まで培養した.培養用ディッシュ作製当日に培養液を開封した周期(0日群),開封後1-7日経過した周期(1-7 日群), 開封後8-13日経過した周期(8-13日群)でのDay2または Day3 での良好胚率を比較した.分割期胚凍結後, 継続培養胚当たりの Day5または Day6の良好胚盤胞率を比較した.また,それぞれの新鮮胚移植もしくは凍結融解胚移植における臨床妊娠率を検討した.有 意差検定は,t 検定(良好分割率・良好胚盤胞率)とχ 検定(臨床妊娠率) を用いた.
【結果】
Day2または Day3での良好胚率は,0日群95.1%(77/81)と比較して, 1-7日群84.2%(101/120)および 8-13日群76.0%(19/25)で有意に低下し た.Day5 または Day6 での良好胚 盤 胞率は,0日群48.4%(15/31), 1-7日群35.9%(14/39),8-13日群42.9%(3/7)となり各群間での有意な差は得られなかった.分割期胚移植における臨床妊娠率は,0日群 10.5%(2/19),1-7日群12.0%(3/25),8-13日群33.3%(1/3), 胚盤胞移 植では,0日群16.7%(1/6),1-7日群14.3%(1/7),8-13日群50%(1/2)で あり,それぞれ差はなかった.
【考察】
良好胚盤胞率と臨床妊娠率に差は認められなかったが,Day2または Day3での良好胚率は 0日群と比較して1-7日群および 8-13日群で有意に低下したことから, 開封後の日数経過とともに培養成績に影響を 及ぼすことが示唆された.今回の検討により,これまで開封後14日としていた使用期限を今後開封後7日として培養液を管理していくことが, より多くの移植可能胚を得るために妥当であると考えられる.