在宅医療が必要なハイリスク児の退院支援の実際と課題
2017年度 年次大会-講演抄録|日本生殖看護学会パネルディスカッション 高年齢者のART治療後の次世代養育の現状と課題と日本生殖看護学会における取り組み
学会講師:橋倉 尚美
Abstract
新生児医療の進歩は目覚ましく,NICUやGCUなどの発展から早産児や先天性疾患を持つ多くの子どもたちの救命が可能となりました.
しかしその一方で,気管切開や在宅人工呼吸器,在宅酸素,胃瘻や胃管による経管栄養など複数の医療的ケアの必要とする子どもが増加しています.
実際の医療的ケアの必要な子どもの数は正確にはわかっていませんが,平成27年度,国立研究開発法人国立成育医療研究センターによる,小児在宅医療地域コア人材育成講習会では,日常に医療的ケアを必要とする15歳以下の子どもは,48,360人以上と推測されています.
当院においては,在宅医療管理料を算定している中で,医療的デバイスのある子どもは128名います(平成29年6月現在).
1. 当院での在宅支援の実際
当院では医療的ケアの必要なこどもの療養環境を整え,在宅ケアを支援することを目的に「こども在宅支援チーム」を2013年4月に立ち上げ活動しています.
チームメンバーは医師・看護師・臨床心理士・医療ソーシャルワーカー・理学療法士・臨床工学士などで構成しています.
具体的な活動として,医療的ケアの必要な児が在宅へ移行する際の問題抽出及び解決,地域医療及び保健機関・福祉サービス・教育機関との調整,医療的ケアの指導の改善及び標準化などを行っています.
これらをスムーズに導入するために「こども在宅支援ガイド」というプロトコルを作成し,院内での標準化を行っています.
ガイド内では“医療的ケアの必要なこどもの在宅までのプロセス”として【入院~病状安定まで】【在宅移行決定期】【退院前調整前期】【退院前調整後期】【在宅調整期】に分類し,患者家族,院内関係者,地域関係者のそれぞれの役割を経時的に表示しています.
役割や目標をさらに細分化したものとして“小児在宅生活支援シート”を作成しています.
子どもたちは成長発達や病状によりNICUからGCU,小児病棟,PICU,小児外来など場所や関わる人は変化します.
同一のツールを使用することは場所や人は変わっても支援が途切れなく提供できる一助になると考えます.
又,退院後も在宅外来とこども在宅ケア看護外来にて在宅を支援する取り組みを行っています.
2. 課題
在宅へ移行するまでの支援の実際として記載しましたが,実際にはこのプロセスがスムーズに進まない事例があります.
その背景には,親にとってのパーフェクトベビーを望み,親の希望する子ども像からの乖離がある場合などは,子どもの受け入れが進まず,【入院(出生)~病状安定まで】【在宅移行決定期】の経過で意思決定が難渋することがあります.
これらの問題を克服せず強引に在宅移行を進めた場合には子ども虐待など新たな問題へと発展することもあります.