受精卵および精子の凍結保存更新 データベースの運用 ~1年間の運用で見えてきたこと~
2016年度 学術集会 一般演題(ポスターセッション)
発表者:宗 修平・植田 健介・中山 理沙・高木 さや香・石上 夕紀子・粂田 千帆・望月 汐美・清水 菜穂・藤田 智久・山口 和香佐・俵 史子
俵IVFクリニック
Abstract
【目的】
当院では受精卵および精子の凍結保存は1年更新の最大5年間と定めており,1年毎に更新に必要な書類を該当患者へ送付し,意思確認を行っている.しかしながら,院内で管理する凍結受精卵および凍結精子の増加により,多い時で1ヵ月に100件にのぼる更新書類の作成は大きな業務負担となっていた.さらに,凍結更新に必要となる情報が複数の情報源
に由来していたため,内容の転記ミスなど人為的ミスがしばしば生じることが大きな問題であった.このような背景から我々は凍結保存胚および凍結精子の情報管理を効率よく行うために,昨年からファイルメーカーで作成したデータベースを用いている.本データベースは更新書類の作成に必要な情報が全て患者IDで結びつくよう設計されているため,いくつか
の更新書類の中から送付したい書式のものを選択するだけで,必要情報の自動転記が可能となった.これにより転記ミスがなくなり,更新書類の作成業務に費やす時間を大幅に短縮させることができた.今回,1年間の凍結保存更新データベースの運用において良かった点や改良点について報告する.
【方法】
データベースの構築にはFileMaker社のFileMaker13を用いた.
【結果】
凍結保存更新データベース運用において書類作成にかかる作業時間の短縮に加え,更新書類作成時の人為的なミスは一切なくなった.また,患者問い合わせに対してもデータベース使用以前に比べて迅速な対応ができた.現在,当院で保管する凍結受精卵数は2,693個,凍結精子は150 チューブであり,該当患者数はそれぞれ886名と107名に相当する.データベース運用開始の2015年2月から2016年6月までに送付した凍結受精卵の更新書類は917通,凍結精子の更新書類は130通であった.一方で,同期間に更新書類の返答期限を経過したが,返答のない患者は凍結受精卵が91名,凍結精子が28名であった.また,カルテ記載の住所へ手紙を送付したが,35件は「あて所に尋ねあたりません」となり返却とさ
れた.これらの結果を踏まえ,本年度から新たに「凍結更新未受理」および「音信不通者情報」のデータベースを本機能に付帯させた.前者は更新の手紙を送付済みで,返答期限を経過した患者を抽出し,後者は郵便物が宛名不明で返却された患者を抽出する.これらの機能を用いることで,対象患者を抽出し,適切な時期に再連絡をとることや,通院中の患者であれば,来院時に伝え忘れがないよう診察画面で凍結保存更新状況を確認することが可能となった.
【考察】
凍結保存更新データベースの運用により,業務効率および患者問い合わせに対する初期対応が改善した.また,データベース利用により特定の条件に当てはまる患者を抽出することが容易となり,更新書類未受理者など再度対応すべき患者を必要に応じて抽出することが可能となった.