受精予測式を用いたIVF,ICSIの受精方法選択と実際の臨床成績
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:江夏 徳寿・岸 加奈子・古橋 孝祐・江夏 宜シェン・岡本 恵理・水澤 友里・山田 聡・松本 由紀子・苔口 昭次・塩谷 雅英
英ウィメンズクリニック
Abstract
【目的】
近年の精子運動解析システム(CASA)は精子数や運動率以外にも運動速度や頭部振幅など, 精子運動の質についても計測する事が可能となっている.しかしながら, これらの値が臨床上どのように活用でき るのかについての明確な基準はない.当院では以前より精液所見や年齢などのデータを蓄積,解析しIVF,ICSIの受精率を予測する受精予測式を作成してきた.2019年4月より, この受精予測式を基にした受精方法選択を臨床に導入しており,その臨床成績について検討した
【方法】
受精予測式(精子運動指数, 曲線速度, 頭部振幅, 採卵個数を基 に算出)を用いて受精方法を決定した 2109年4 ~ 6月におけるART成績と精子濃度, 運動率, 運動精子濃度, 精子運動指数を用いて受精 方法を決定していた 2018年4 ~ 6月のART 成績を比較した.IVMCISI,TESE-ICSI, レスキュー ICSIの成績は除いて検討した.また既往 IVFの成績や患者希望で受精方法を変更した症例も除外した.
【結果】
対象となったART周期および回収卵は2018年4 ~ 6月576周期2,895 個と2019年4 ~ 6月552周期2,902個であった.2018年群と2019年群に おける平均年齢,ART回数はそれぞれ 38.3±4.8歳 vs39.6±4.8歳,2 ±5.6回 vs2±3.3回と両群間に差を認めなかった.IVF,ICSI,Split の 内 訳はそ れ ぞ れ 388例(67.4%),114例(19.8%),74例(12.8%)vs 126例(22.8%),220例(39.9%),206例(37.3%)と2019年群において IVF が 減少しICSI,Split が増えていた. 受 精率, 正常受 精率は 86.3% vs 89.0% p<0.01,73.5% vs 79.3% p<0.01と2019年群で有意 に高かった. 受 精卵中の分割 率, 良 好 分割 率は 89.6% vs 90.8% p=0.15,51.5% vs 54.0% p=0.10と両群に差を認めなかったが, 継続培養卵中の胚盤胞率は 56.5% vs 62.5% p<0.01と2019年群で有意に 高かった.また, 移植もしくは凍結できた卵の割合(胚利用率)も 60.7% vs 64.9% p<0.01と2019年群において有意に高かった.
【考察】
受精予測式を基に受精方法を決定した 2019年群において有意に受精率が向上していた.この事は IVFで受精率の低い事が見込まれる症 例をICSIへと誘導した結果と考えられる.では全例ICSIにしても良い のかと考えると, 各群の中で 2019年のIVF 施行群が最も受精率, 胚利用率が高くなっており,IVFの方が良好な成績を見込める症例がある事を示唆する.今回の検討では受精率だけでなく胚盤胞率,胚利用 率も向上しており適切な受精方法の選択が受精後の胚形成にも好影響を与える可能性が示唆された.