Papers and Abstracts

論文・講演抄録

受精から捉える成育医学への応用研究の展開

阿久津 英憲

2022年度 年次大会-講演抄録特別講演-5

学会講師:阿久津 英憲

Abstract

成育医学は,受精から始まるヒト発生の流れの中,包括的に線で捉える学問と考える.近年のバイオテクノロジーの進展,特にゲノム編集の応用は医療へも広がりを見せている.
ヒトゲノムのドラフトシーケンスの解析結果が2001年に報告され,今年が20 年目になる.ヒトゲノムに関する膨大な知識の集積,ゲノム医療の進展など社会全体としてもゲノム認知度が高まっている.その趨勢のなか,シングル細胞解析技術などの解析技術の向上とともにヒトゲノムの探索がヒトの初期胚の領域まで入ってきた.わが国では,ヒト胚は「人の生命の萌芽」とされ,ヒト受精胚を損なう取扱いは認められていない.一方で生命科学的,医学的な観点から,全能性を有する受精胚について分子生物学的に知識を深めることは重要であると思われる.ゲノム編集技術の活用でヒト初期胚発生の分子プログラムを解明していく期待があったなか,ゲノム編集技術の不適切な生殖医療への応用により双
子のゲノム編集ベビーの誕生が中国で報告された.その後,WHOなど国際的な枠組みでヒト受精卵ゲノム編集について議論が進められている.ゲノム編集技術の生殖細胞への適応の可能性と倫理的,社会的および医学的観点も含めた課題についても述べていきたい.

国立成育医療研究センターでは,組織設立当初から小児の難病研究,治療法開発のために受精胚からのヒトES 細胞樹立研究を実施している.2010 年にヒトES細胞(成育ES細胞:SEES)の樹立を報告した.ヒトES 細胞による再生医療研究を進め,国立成育医療研究センターでは2020 年5月に,ヒトES 細胞を活用した先天性高アンモニア血症に対する再生医療の成功を報告した.ヒトES細胞による再生医療はわが国初であり,肝臓への移植,さらに新生児に対するES 細胞-再生医療は世界初の事例となった.本講演では,ヒト多能性幹細胞の成育医療への貢献として,再生医療と新たなバイオモデルの創生についても報告する.

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