Papers and Abstracts

論文・講演抄録

反復着床不全に対する免疫学的検索の意義とその対策

福井	淳史

2023年度 年次大会-講演抄録シンポジウム2:着床障害の原因と治療

学会講師:福井 淳史

Abstract

妊娠の成立や維持には、内分泌系のほかにも免疫系が重要な役割を果たしている。免疫系は、父親由来の抗原を有して母体にとっては異物である胎児を、支障なく着床させ、10ヶ月の妊娠期間中、母体と巧みに協調させ妊娠を維持させる。しかし、免疫学的には異物である胎児がなぜ拒絶されないのかという生殖免疫学の中心的命題が提起されて半世紀以上が過ぎた現在でも、免疫学的妊娠成立維持機構が完全に解明されたとは言いがたい。
妊娠の成立・維持においてT細胞やNK細胞などの免疫担当細胞は、末梢血中や子宮内膜に存在し、子宮内における免疫機構の維持に重要な役割を果たしている。これまで末梢血、子宮内膜、脱落膜中の免疫担当細胞の数および構成比率、あるいは受容体発現やサイトカイン産生異常、産生比率などについての様々な検討がなされ、妊娠の成立や維持におけるT細胞やNK細胞などの免疫系の関与については、ほぼ確立された概念であるといえる。
妊娠中には、1型(TNF-αやIFN-γなどによる炎症性免疫反応)および2型(IL-4、IL-10などによる抗炎症反応)免疫反応がおこる。胚の着床と引き続いておこる子宮内膜への浸潤のプロセスは、炎症性免疫反応、つまり1型免疫反応によるものであり、その後の胎児の成長と発達は抗炎症性の2型免疫反応によるものである。T細胞のうち、1型サイトカインを産生するヘルパーT(Th)細胞はTh1細胞と、2型サイトカインを産生するヘルパーT細胞はTh2細胞といわれ、Th1/Th2比の変化により生殖異常を診断する試みが行われ、反復着床不全や不育症などの生殖異常ではTh1/Th2比が高値となることが知られてきている。子宮内のNK細胞は黄体期から妊娠初期にかけて増加し、妊娠初期には子宮内リンパ球の約70%を占めるようになる。我々は、体外受精・胚移植において細胞傷害性NK細胞が増加していると妊娠が成立しがたいこと、NK細胞表面に発現するサイトカイン産生と細胞傷害性に関与するNKp46受容体発現が生殖異常で低下することを報告した。さらには精液が子宮NK細胞を変化させ、妊娠が成立・維持されやすい状態へと導くものの、これが起こらない場合には不妊症となる可能性を報告した。またNKp46発現からその後の妊娠予後を推定できる可能性も示している。NK細胞の妊娠への関与については異論がないものと思われるが、適確なバイオマーカーが不足しているため各種ガイドラインではNK細胞の検査は推奨されていない。
いまだデータが不足しており十分なエビデンスとはなってはいないのが現状であるものの、NK細胞異常が認められる反復着床不全に対しては、副腎皮質ホルモンやビタミンD、免疫グロブリン療法(IVIG)、脂肪乳剤療法(LE)が有効である可能性が報告されている。これらの治療成績を示すと共にNK細胞の表面抗原発現が着床不全のバイオマーカーとなり得るのかを皆様と議論したい。

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