卵胞液中の活性酸素量が卵子の 極体放出と紡錘体の局在に与える 影響
2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:中嶋 直綱1)・中田 久美子2)・河野 博臣1)・吉田 雅人1)・早川 繁1)・山下 直樹1,2)
1) 山下湘南夢クリニック
2) 山下湘南夢クリニック 高度生殖医療研究所
Abstract
【目的】
活性酸素種(ROS)は,反応性の高い酸素分子誘導体で細胞のDNA 損傷に関与することが知られるが,卵胞液中にはROSを消去する酵素などが存在し卵子をROS から保護している. しかし,ROS の消去機能が低下すると卵子の質の低下などが報告されている.一方,卵胞液中のROSと卵子紡錘体との関連性は報告がない.そこで,本研究では卵胞液中の活性酸素値,紡錘体と胚発生への影響を後方視的に解析した.
【対象と方法】
2015年11月から2016年3月の期間で,当院で採卵を行った患者の卵胞液(n=38)を測定対象とした.卵胞液を遠心分離(600g,7分)し,上清400μLとルミノール10μLを混和後,ルミノメーター(Berthold 社)で各サンプルの1秒あたりの発光量(cps:count per second)を3回測定し,平均値を当該卵胞液の活性酸素値とした.患者年齢を≦34(n=7),35-39(n=15),40-44(n=13),45≦(n=3)と区分し,活性酸素値と穿刺卵胞あたりのMII 獲得,受精,分割,Day5胚盤胞発生率を比較した.紡錘体の確認は顕微授精を施行した患者(n=29)を対象とし,顕微授精直前に紡錘体可視化装置(OLYMPUS 社)を用いて行った.第一極体を中心として左右0-29°の範囲内に紡錘体形成されている場合を極体直下群とし,30-180°の範囲で形成された場合を極体非直下群,紡錘体形成の未確認群を非形成群とした.
【結果】
年齢ごとの活性酸素値は,<34で58.5±11.3,35-39 で 81.6±24,40-44 で79.8±28.2,45<で174.8±164で年齢とともに上昇する傾向が見られたが有意差はなかった.受精率は各年齢間で有意差は見られなかったが,Day5胚盤胞発生率において,44.4,43.5,17.6,20%となり,40-44歳が有意に低かった(P <0.05).極体直下群(n=19),極体非直下群(n=8)および極体非形成群(n=3)の平均年齢は37.3,38.3
および37.3であり,年齢の差はなかった.紡錘体の形成において,極体非直下群(n=8,卵子数53)の活性酸素値は85.8±25.5であり,極体直下群(n=19,卵子数36)の67.1±17.9と比べて有意に活性酸素値が高かった(P <0.05).紡錘体非形成群(n=3,卵子数 11)の活性酸素値は82.3±16.2 であったが,他の2群との有意差はなかった.この時の受精,分割,Day5胚盤胞発生率に有意差はなかった.
【考察】
本研究において高齢患者で活性酸素値が高値を示す傾向が見られたが有意差はなかった.しかし,活性酸素値が高い卵胞液に極体非直下型の紡錘体を有する卵子が多かったことから,活性酸素が第一減数分裂時の極体放出に影響を与えている可能性が示唆された.