卵胞液に暴露した精子を用いた ICSI
2017年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:町田 遼介・貴志 真衣・上代 傑・山根 里歩・佐藤 善啓・菊池 芙美・江崎 敬
池袋えざきレディースクリニック
Abstract
【目的】
体内の受精過程において,精子は卵胞液や卵丘細胞と接触し,これらに含まれるHCO3-やAlbuminの様な成分によって受精能を獲得し,受精へと至る.
一方ICSIでは,精子は卵胞液や卵丘細胞とは接触せずに受精へと至る.この点が体内とICSIの受精過程における大きな相違点である.
そこで,卵胞液に精子を暴露し,ICSIの受精過程を体内の受精過程に近づけ,体内の受精機序を再現し,精子の更なる受精能獲得を促すことで,ICSIの成績が向上するか検討した.なお,可視化の容易なHyper Activationを受精能獲得の指標とした.
【方法】
密度勾配遠心法とswim up 法により回収した精子を卵胞液に30分間暴露した.
卵胞液に暴露した精子を暴露群,暴露しなかった精子を非暴露群(対照群)とした.
Hyper Activationの発現を確認するために,39症例を対象に卵胞液暴露前後の精子の曲線速度をSMASで測定した.
次に,成熟卵が2個以上得られた47周期の281個の卵子を対象に,同一周期を暴露群と非暴露群に分けてICSIを行い,受精率,胚発生率の比較を行った.
【結果】
精子の曲線速度は卵胞液暴露処理前112.2±28.4μm/ 秒に対して,処理後の暴露群,非暴露群はそれぞれ144.4±21.4μm/ 秒,134.5±22.6μm/秒であり,処理の前後で有意な増加が認められた.
さらに,暴露群,非暴露群間でも暴露群が有意に増加しており,暴露群でHyper Activationがより増強される結果となった.
暴露群,非暴露群の正常受精率は68.9%,77.4%,分割率は70.4%,80.1%,胚盤胞形成率は46.7%,58.2%,良好胚盤胞形成率は33.3%,34.2%であり,全てにおいて両群間に有意な差は認められず,ICSIの成績は向上しなかった.
【考察】
精子を卵胞液に暴露することでHyper Activationの増強が確認されたが,卵胞液に暴露した精子を用いたICSI では受精,胚発生の成績向上は認められなかった.
原因として,培養液自体にもHCO3-やGlucose,Albuminなどが含まれており,培養液のみである非暴露群でも十分なHyper Activationが惹起されたことや,そもそもHyperActivation自体がICSIにおける受精に必須の現象でないことなどが考えられる.
このため,精子を卵胞液に暴露してもHyper Activationを増強するのみで,受精や胚発生の成績向上には寄与しなかったと考えられる.