卵子の染色体数異常の細胞生物学的な原因
2023年度 年次大会-講演抄録|Current topics
学会講師:北島 智也
Abstract
卵子の染色体数異常は,流産やダウン症など先天性疾患の主要な原因の一つである.この染色体数異常は,卵母細胞が卵子に成熟する過程の減数第一分裂における染色体分配にエラーが起こることによって生じる.卵母細胞は他の細胞に比べて染色体分配エラーを起こしやすく,しかもそのエラー頻度は母体年齢とともに上昇する.卵母細胞に特異的な性質やライフ時間進行がどのように染色体分配エラーを起こしやすくするのかは,明らかではない.
我々はマウス卵母細胞を研究モデルとして用い,細胞生物学的な解析からこの問題に取り組んでいる.独自のライブイメージング技術を用いることにより,卵母細胞の減数第一分裂における染色体と,それを分配する細胞内装置である紡錘体の動態を解析し,それらの背景にある分子機構を調べてきた.これまでに,卵母細胞で染色体分配エラーを起こしやすくする内在性の要因として,卵母細胞特異的な(1)紡錘体二極化の機構,(2)染色体と紡錘体微小管の接続の制御があることを見出してきた.また,ライフ時間進行に伴うエラー要因として,(3)染色体接着の減衰があることを見出してきた.卵母細胞ではこれらの要因が重なり合って染色体分配エラーが引き起こされると考えられる.
今回の発表では,染色体を個別に可視化する新たなライブイメージング解析から見えてきた知見を含めて紹介し,卵母細胞の染色体分配エラーの細胞生物学的な機構について議論したい.