Papers and Abstracts

論文・講演抄録

人工卵子の作製技術の最前線

林 克彦

2016年度 年次大会-講演抄録ART Basic lecture

学会講師:林 克彦

Abstract

胚性幹細胞(ES細胞)や人工万能細胞(iPS細胞)は体を構成するあらゆる細胞に分化する能力をもつ.生殖細胞系列も例外ではなく,ES/iPS細胞を胚盤胞に導入して得られるキメラマウスからはES/iPS細胞由来の卵子や精子が得られ,それらに由来する個体は野生型のマウスと同様に成長し,妊孕性をもつ個体となる.当然ながら理論上は体内での生殖細胞系列の分化過程を体外培養で再現すれば,ES/iPS細胞から機能的な卵子や精子を作れることになる.これまでの我々のマウスを用いた研究において,ES/iPS細胞から卵子や精子の前駆細胞である始原生殖細胞(Primordial Germ Cell:PGC)を分
化誘導する体外培養法を開発した.この培養法により得られたPGCは卵巣もしくは精巣に移植すると,それぞれ機能的な卵子や精子になることが知られている.しかし,PGCは発生のごく初期の生殖細胞であり,そこから配偶子になるまでの長い期間を体外培養で再現することは容易ではない.我々はその後の研究において,ES/iPS細胞から卵子形成に至るまでの全過程を再現する体外培養系の開発を続けてきた.その結果,最近になってES/iPS細胞から多数の成熟卵子を得られる培養系を開発することに成功した(論文準備中).本学会では,これらの卵子の機能性や問題点について議論し,今後の改良点やヒトへの応用のための技術的な課題などについて議論していきたい.

参考文献

  • Hayashi K, Saitou M:Perspectives of germ cell development in vitro in mammals. Anim Sci J, 85:617-626, 2014.
  • Hayashi K, Saitou M:Stepwise differentiation from naïve state pluripotent stem cells to functional primordial germ cells through an epiblast-like state. Methods Mol Biol, 1074:175-183, 2013.
  • Hayashi K, Saitou M:Generation of eggs from mouse embryonic stem cells and induced pluripotent stem cells. Nat Protoc, 8:1513-1524, 2013.
  • Hayashi K, Ogushi S, Kurimoto K, Shimamoto S, Ohta H, Saitou M:Offspring from oocytes derived from in vitro primordial germ cell-Like cells in mice. Science, 338:971-975, 2012.
  • Hayashi K, Ohta H, Kurimoto K, Aramaki S, Saitou M: Reconstitution of the mouse germ cell specification pathway in culture by pluripotent stem cells. Cell, 146:519-532, 2011
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