マウスの卵胞培養過程で生じる細 胞死を利用した評価基準の作成
2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:藤村 雪乃1)・玉置 幸嵩1)・西 佐知2)・山縣 一夫2)・細井 美彦2
1) 近畿大学大学院 生物理工学研究科生物工学専攻 2) 近畿大学 生物理工学部遺伝子工学科
Abstract
【背景】
近年,不妊治療を受ける人は増加傾向にある.卵巣内に存在する未成熟な卵胞は年齢の増加に伴って減少し,その多くは成熟・排卵に至ることなく退行してしまう.そのような卵胞を体外で培養し卵子を得ることができれば,不妊の原因のひとつである卵子数の減少に向けた治療になる可能性がある.このような点からも卵胞培養分野は今後注目すべき分野と考
えられる.しかしながら,現段階では培養系の評価として卵子成熟率や胚発生率,産仔獲得率のみが使用されている場合が多く,培養過程で卵胞の評価を行うことは主流ではない.卵胞が退行や閉鎖を起こす原因のひとつとして顆粒膜細胞のアポトーシスが報告されている.これまでの研究ではサンプルの固定が必要なTUNEL 染色等によってアポトーシスを検出しており,それが卵母細胞の成熟率やその後の胚発生率にどのような影響を与えるかは不明である.そこで細胞の固定を必要とせず細胞死を観察できる色素を用いて卵胞のライブセルイメージングを行い細胞死の経時的な観察を試みた.この研究は,培養過程で生じる細胞死を指標として卵胞培養過程における新たな評価基準を作成することを目標とした.
【方法】
卵胞の培養はHasegawaらによって報告された二段階発育培養法を元にして行った.二段階目の8日間の培養に細胞死を検出するPropidium iodite およびNucGreenを添加して卵胞における細胞死を検出した.観察は2日ごとに行い,卵胞の明視野画像と蛍光画像を得た.得られた写真はImageJを用いて解析した.CV100(0 横河電機)を用いて卵胞のライ
ブセルイメージングを行った.
【結果】
Day4 およびDay6においてGV卵子が得られた卵胞と比較してGVBD卵子が得られた卵胞では,卵胞の染色率が有意に高いという結果が得られた.(Day4 GVBD:2.16%, GV:1.42%, P<0.05 ; Day6 GVBD:1.70%,GV,1.42%, P<0.05)MII卵子が得られた卵胞では,GVBDとGVのどちらの卵子が得られた卵胞とも染色率に有意差はみられなかった.また,GVBD 卵子が得られた卵胞では,Day2 からDay4において染色率が有意に上昇し,Day4 からDay6 において卵胞の染色率が有意に減少した(Day2 :1.60% – Day4 :2.16% – Day6 :1.70%, P<0.05).さらに同様の期間でライブセルイメージングを行った結果,3種類の卵胞の発育パターンが観察された.そのうち,卵胞腔が小さく卵胞の中心がほぼ染色されていないパターンにおいてMII卵子が得られた.
【結論】
以上の結果から,卵胞における細胞死の割合によって卵子成熟度が変化することが示唆された.よって,細胞死を卵胞培養の評価基準として用いることができる可能があると考えられる.