ヒト胚第一卵割時における不均等 分割の動的解析とその後の胚発育
2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:岡田 直緒・岩田 京子・湯本 啓太郎・杉嶋 美奈子・溝口 千鶴・山内 至朗・田中 藍・宮崎 翔・経遠 智一・中岡 実乃里・見尾 保幸
ミオ・ファティリティ・クリニック リプロダクティブセンター
Abstract
【目的】
生殖補助医療において,良好胚への発育を予測することはきわめて重要であるが,早期に胚の予後を予測可能な形態学的評価基準は未だ十分に確立されていない.今回,我々はhigh-resolution timelapse cinematography(hR-TLC)より得られた知見から,臨床上頻回に遭遇する第一卵割時の割球の不均等性に着目した.本研究では,不均等な卵割がその後の胚発育にもたらす影響を追い,早期における形態学的評価基準確立のための一助とすべく種々の検討を行った.
【方法】
本研究への同意が得られたICSI 実施患者の正常受精卵124個を対象とし,第一卵割後の2細胞期において,それぞれの割球の最大断面積を測定した.検討は,その後の胚発育[胚の形態,多核割球(multinucleated blastomere; MNB),胚の転帰]と第一卵割時の面積差の後方視的解析で,hR-TLCもしくはEmbryoScopeを用いて行った.また,胚評価はイスタンブールコンセンサスに基づき評価した.
【結果】
胚発育と二割球の面積差との関連において,形態不良胚(n=41)の面積差は,形態良好胚(n=83)に比して有意に大きかった(1325.1±1169.0μ㎡vs. 700.6±554.4μ㎡ ; P<0.01).また,MNB が認められた胚[MNB(+); n=28]の面積差は,MNBが認められなかった胚[MNB(-); n=96]に比して有意に大きかった(1323.5±1346.2μ㎡ vs. 785.7±610.1μ㎡ ;
P<0.05).更に,治療に利用不可胚(n=20)の面積差においても,治療に利用可能胚(n=81)に比して有意に大きかった(1695.1±1357.9μ㎡ vs.819.3±667.6μ㎡ ; P<0.01).加えて,二割球の面積差を400μm2毎に細分し,胚発生との関連の結果から,形態不良胚は面積差が1,600μm2以上で増加し,また,MNB 胚出現率は,面積差2,000μm2以上で,著明に増加した.
【考察】
今回の検討から,二割球の面積差の増加が形態不良胚および多核胚の増加,ならびに,胚利用率低下との関連が示され,第一卵割時における二割球の面積差の評価は,その後の胚発育を予測する上で重要な指標となる可能性が示唆された.また,この不均等分割の発生は細胞分裂や核分裂を制御している微小管や紡錘体位置,細胞骨格の異常などに起因していることが推測され,更なる検討が必要である.