Papers and Abstracts

論文・講演抄録

グルタチオンエチルエステルは加 齢により低下したウシ卵子の胚発 生能を向上させる

学術集会 一般演題(口頭発表)

2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:真方 文絵・小牧 春奈・出田 篤司・小西 正人

JA全農ET研究所

Abstract

【目的】

様々な生物種において,加齢による卵子の質の低下が報告されている.我々の研究においても,120 ヶ月齢以上のウシから採取した卵子では体外受精後の胚発生能が低下することが明らかとなった.加齢による発生能低下機序の一つとして,ミトコンドリアの機能低下による酸化ストレスの悪影響が示唆されている.本研究では,抗酸化物質であるグルタチオンエチルエステル( GSH-OEt) が老齢牛由来卵子の体外受精後の胚発生能に及ぼす影響について検証した.

【方法】

食肉処理場にてホルスタイン種経産牛より個体別に卵巣を採取し,若齢区( 50ヶ月齢未満,39.9±5.4ヶ月齢) および老齢区( 120ヶ月齢以上,135.2±14.2 ヶ月齢) の卵丘細胞-卵母細胞複合体を試験に供した.5mM GSH-OEtを添加した培地を用い,38.5℃,5%CO2,95% 空気の環境下で23時間の体外成熟培養を行った.培養後の卵子はヒアルロニダーゼ処理により卵丘細胞を剥離し,アセトオルセイン染色をして核相観察を行った.第二減数分裂中期( MII期)に達したものを成熟卵子として核の成熟率を算出した.体外受精後,38.5℃,5%CO2,5%O2,90%N2の環境下で8日間の体外発生培養を行い,卵割率および胚盤胞期胚への発生率を評価した.

【結果】

若齢区において,成熟培地へのGSH-OEt添加は核成熟率および胚盤胞期胚への発生率に影響を及ぼさなかった( 非添加区 69.5%および39.4%,GSH-OEt 添加区 75.5% および45.0%). 一方老齢区では,MII 期に達した卵子の割合はGSH-OEt添加区で80.6%であり,非添加区 (64. 8%) と比べて有意に増加した (P<0. 01).さらに,卵割率,胚盤胞期胚への発生率および良好胚盤胞発生率は非添加区で50.6%,22.5%および20.0%であったのに対し,GSH-OEt添加区ではそれぞれ70.6%,48.3%および43.3%であり,いずれも有意に高かった( P < 0.01).

【考察】

ウシ卵子において,GSH-OEt添加は核成熟を促進し,加齢による胚発生能低下を改善する可能性が示唆された.

loading