―総説― ARTと着床免疫~着床不全症例に対するタクロリムス療法
2023年度 学会誌 掲載論文|日本IVF学会雑誌 Vol.26 No.2 33-39
著者:中川浩次1)・杉山力一1)・山口晃史2)
1)杉山産婦人科新宿,2)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター母性内科
Abstract
雌雄の配偶子である卵子と精子が結合して形成される細胞である受精卵は、母体(子宮)にとっては移植学的にsemi-allograftとみなすことができる。Semi-allograftは、通常、免疫学的に排除されるはずであるが、受精卵は排除されることなく着床し、出産まで母体内に保持することが可能である。このメカニズムに破綻が生じると反復着床不全(RIF)や習慣流産、さらには周産期合併症が生じる。妊娠成立とヘルパーT細胞の研究は30年以上も前から行われており、タイプ1ヘルパーT(Th1)細胞とタイプ2ヘルパーT(Th2)細胞のバランスが妊娠成立に重要であると考えられている。Th1/Th2細胞比をその指標として使用し、Th1/Th2比>10.3を免疫学的拒絶と考え、2011年より免疫療法として免疫抑制剤(タクロリムス)をRIF対策として使用している。本稿では、タクロリムス使用にまで至った経緯やその治療法、さらには今後の展望についても概説することとする。
キーワード:Th1/Th2比、タクロリムス、RIF、免疫抑制剤、RPL