―特別寄稿― 生殖医療における研究発表の基本
2023年度 学会誌 掲載論文|日本IVF学会雑誌 Vol.26 No.2 85-90
著者:髙橋俊文
福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センター
Abstract
医学研究の成果は学会や論文を通じて社会へ発信される。しかしながら、学会発表の多くは必ずしも科学的な手法でデータ分析が行われていない。生殖医療に関わる医療者は多職種であり、それぞれが学会で発表する機会が増加している。2022年から不妊治療の保険診療が開始され、生殖医療への社会的関心が高まっており、正しい情報の発信は生殖医療に関わる医療者の責務である。本稿では、研究初心者が陥りやすいピットフォールを示しながら、データ解析の基本的なルールについて解説した。研究はすべて特定の研究デザインの型に分類可能であり、研究者は研究を開始する時点で研究の型を意識する必要がある。研究の動機にはクリニカル・クエスチョンが必要であり、クリニカル・クエスチョンを研究実施可能な状態に具体的かつ定量的に構造化したのがレサーチ・クエスチョンである。レサーチ・クエスチョンはPE(I)COに従い作成する。データには種類があり、それぞれの種類応じてデータの要約方法が異なることは重要な点である。体外受精治療における受精率のデータを分析する際には個々の患者の卵子と受精卵を合算しないように注意すべきである。受精率をパーセンテージで表記をする際には、中央値とメジアンまたは四分位範囲を用いるべきである。前後比較研究は比較対照群のない研究の代表であり、新しい治療法のパイロット研究で実施されることが多い。前後比較研究は治療の有効性について結論を出すことはできない研究デザインであることを肝に銘じておくべきである。